イギリスの音楽事情 - グレード・テスト

音楽の検定やコンクールなどは日本でも色々ありますが、イギリスでは、通称 “Grade Exam” と呼ばれる試験が大きな位置を占めています。試験を催している団体は、ABRSM (Associated Board of the Royal Schools of Music - 日本では英国王立音楽検定と呼ばれています。)、Trinity Guildhall (Trinity College London)、 LCM (Leeds College of Music) など。一般には ABRSM が一番普及しているようですが、他の団体の試験もだいたい内容は同じです。

仕事柄、このグレード・テストの話を人から聞いたり、(それほど深くではないにせよ) 多少関わり合いになることがあるのですが、個人的には疑問を感じることが多いです。私が一番良く知っているのは ABRSM なので、それについてちょっと説明すると、グレードは1~8まであって、受験者は各自のレベルに合わせて受けるグレードを選びます (どのグレードも年齢制限はなし)。グレード1はほんの初級程度で、グレード8になると曲のレベルはなかなか高くなり、バッハの平均律からプレリュードとフーガ、ベートーヴェンのピアノソナタの一楽章、ショパンのノクターンなどが課題曲に加わります。課題曲は、リストA (バロック)、B (古典派)、C (ロマン派~現代) に分けられていて、受験者はそれぞれのリストから1曲ずつ選んで、合計3曲を試験で弾くこととなります。暗譜の必要はありません。

曲の演奏の他に、各グレードに適したレベルのスケールやアルペジオの演奏、初見演奏、更に Aural Test というものがあります。Aural Test というのは、受験者の耳と音楽理論をチェックするためのもので、試験管が弾いたメロディーを暗記して歌ったり (弾くというオプションもあり。)、試験管が弾く曲の和音名やその音楽についての質問に答える口頭試験です。

試験を受ける準備としては、各時代の音楽を並行して練習することを始め、スケールやアルペジオの練習、初見演奏の練習、イヤー・トレーニングが必要になります。音楽を学ぶ者にとって、確かにこれは理想的とも言える課題だと思います。グレード・テストに向けての練習は、きちんとすれば素晴らしい成果が得られることは間違いないのですが、問題は、良くないテクニックで弾いていても、ある程度弾けたら試験に通ってしまうというところにあると思います。グレード7や8をパスした人でも、指がふにゃふにゃだったり、脱力ができていなかったりなど、テクニックができていない人がとても多いのです。特にスケールやアルペジオの練習というのは、きちんとしたテクニックでさらうことにこそ意味があるのに、それを悪いテクニックで無理矢理弾けるようにして試験に合格することのどこに意味があるのだろう?と疑問に思います。テストに合格した直後は達成感があるかもしれませんが、良いテクニックが身についていなければ、後に必ず壁にぶつかることになります。そうやって限界を感じたり、練習しても上達しないことに嫌気が差してピアノをやめていく人が多いのではないでしょうか。私自身も大人になってからテクニックの改善に苦労してきたので、そういう気持ちはよくわかるのです。

グレード・テストが一般化しているイギリスでは、それが必要以上に重要視されているきらいがあります。子ども達は、「周りの友達がみんなグレード・テストを受けているから、私も受けたい」 と言い、大人も自分のレベルや自分の生徒のレベルを語る時に、決まってグレードを持ち出します。もちろん、ひとつの目安として 「私はグレード5を終えました」 という言い方をするのは便利であることに間違いはないのだけれど、それ以外の方法で自分のレベル (あるいは自分の生徒のレベル) を語ることができない状況には疑問を感じます。きちんとしたテクニックが身についていなくても試験に合格できる現状において、演奏の改善に本当に大切なのは 「合格した」 という結果だけではなく、自分の (または生徒の) 演奏の弱みをきちんと把握できているかどうかであるはずです。でも、そういう分析がきちんとできている人や教師は少ないと感じます。指や腕の位置や角度などを一音一音教えられる教師は少ない。それでも生徒は合格してしまうのだから、誰も疑問に思わない。もちろんきちんと教えられる人も中にはいますが、適当に教えている人が多いのも現状です。

知人に、ABRSM の試験管として世界を飛び回っている教師にピアノを習っていた女性がいます。彼女は何年も前にグレード8をパスしたのですが、現在もテクニックの改善に苦しんでいます。試験には合格したものの、大人になって自分の弾きたい曲を弾こうとする時に、テクニックがついてこないんですね。その教師の教えたテクニックはひどいですが、更に驚くことに、彼女はその教師に、「音をうたう」 ということや 「自分の音を聴く」 ということを一度も言われたことがないと言うのです。演奏する際に音をうたうことと自分の音を聴くことは、基本中の基本です。これはピアノに限ったことではありません。そんなことを教えられもしない人が試験管を勤めているなんて、考えただけでぞっとします。私はそんな人に評価なんかされたくない。

もうひとつ私が疑問に思うことは、ピアノの試験の課題曲が2年毎に変わるということです。ABRSM の解説には、グレード・テストはアマチュアのための試験だと書いてあります。音楽コンクールや音大の入試などでは毎回課題曲が変わるのが当たり前で、それは私も当然だと思いますが、アマチュアのための試験で、どうして課題曲をそんなに頻繁に変えなくてはならないのだろう?と思うのです。テクニックができていなくても合格させるくせに、暗譜の要求もしないくせに、どうしてこういうところばかりは制限するのだろう?と。ABRSM は、抜粋された課題曲の楽譜を2年毎に出版します。課題曲の演奏が入ったCDも発売されます。これを、膨大な数の試験を受ける人達や先生達が買うとすると、ものすごい売り上げになりますね。楽譜もCDも必要がなければ買う必要はないのですが、特に楽譜は購入する人が多いのが現状です。そういう金儲けの匂いがするところも、私がグレード・テストを胡散臭く思う理由であります。

先に書いたように、グレード・テストそのものは内容も良いし、音楽を勉強する人達のひとつの目標にもなると思います。ただ、それがあまりにも大々的に取り上げられすぎて、みんながみんな 「グレード」 と口をそろえて言う世の中に、私はうんざりしているのです。グレードってそんなに大切なの?音楽を学ぶ人の目標は、グレード・テストの他にもあるべきはずではないの?と思うことが多い日々であります。

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イギリスの音楽事情 - グレード・テスト」への17件のフィードバック

  1. きみー より:

    お久しぶりです。
    身の回りにちょっとトラブルがあって、どんよりしていましたが一先ず落ち着きぼちぼちブログの更新をしようかと思い始めたところです。

    よーくわかります。
    私のところにもABRSMを受けたいと言ってレッスンに来ている生徒(ご自身も先生なのですが)がいます。私も以前少しだけABRSMに関わる仕事をしたことがあります。
    本当におっしゃる通りです。私もいつも疑問を持っています。
    日本でもいくつかABRSMに関わっている団体があるようですが、電子楽器で試験をしているところもあるようです。本来音を聴くことが大事であるべきだし、イギリスで権威のある団体であるのに、電子楽器とはお粗末だと思います。決して電子楽器自体を否定しているわけではありません。ABRSMの姿勢が、殆ど「商売」なのではないかと感じるのです。
    それに教材も余り優れているようには思えません。即席でテクニックを手に入れさせようというか、急ごしらえでボロを隠そうとさせようとしているような教材で、本当にこれでテクニックが付くのかな????と私なんかは思ってしまいます。

    それにグレードを持っていても、それは課題曲だけはきちんと弾けるけど、他の曲は全く弾けないという人がいかに多いか。何のためのグレードなのだろうか、優越感とか見栄のためかと疑問に思います。

  2. LiLA管理人 より:

    ヤマハもグレードなるものを実施してますが,それとは違うものなんでしょうか.上達度を簡単に数値化する「ものさし」としては便利だし,言われるように,音楽を勉強する人の目標になる利点はあると思います.ただ,なんだかよく政府外郭団体が行っている○×検定とかなんたら資格みたいな,お墨付きを販売しているような胡散臭さはありますね.

  3. Yuki より:

    >きみーさん

    事情はわかりませんが、きみーさんもいろいろ大変なようですね。少しでも元気が出ますように。

    私はイギリスに来るまで ABRSM って全く知らなかったのですが、日本でもけっこう受ける人がいるんですね。でも電子ピアノには驚きました!

    テクニック、様々な時代の曲の演奏、イヤー・トレーニングを試験に取り入れるアイディア自体は悪くはないとは思いますが、確かに試験の曲だけや、試験の教材に載っているテクニックだけを練習していたのでは、身につくものは少ないし、あまり意味がないですよね。

    こちらでは ABRSM に限らず、グレード・テストはあまりにも当たり前のこととなっていて、疑問に思ったり批判したりする人が少ないので、「こんなこと書いたらまずいかな?」 などと思いつつ書いたのですが、きみーさんも疑問に思っていたと聞いて、少し安心しました。

  4. Yuki より:

    >LiLA管理人さん

    私はグレード・テストというものを受けたことがなくて、ヤマハやカワイのそれについてもよく知らないのですが、日本いた頃は、なんかこれも胡散臭いなあと思っていました。その団体のシステムにはめこもうとする感じが嫌だったのだと思います。

    そのシステムを知らない人に、「私はグレード5を終えました」 と言っても、「グレード5って何?」 と言われるだけですよね。グレード・テストというのはそういう狭い世界のものであるのに、それをさも重大なことのように取り上げていることに疑問を感じます。これはどの団体も同じような気がしますね。

  5. chichi より:

    こんにちわ。ワタクシ「いぎりすせかつ」というブログを書いていますchichiと申します。娘がバイオリンを習っていて、最近娘の同級生がグレードテストを受験するという話題がよく出て来るので、バイオリンの先生に相談したという話をエントリーしたところなんですが、ネットを検索しているときにYukiさんのこのエントリーを見つけて、紹介させていただきました。私自信もグレードテストに関して色々思うところがありましたけど、先生に後押しされる形で娘の受験はしばらく考えないことにしました。また7歳ですので、今はバイオリンを楽しむことに専念させたいなと思っています。

    • Yuki より:

      >chichiさん

      はじめまして。コメント、そしてブログでのご紹介ありがとうございました!

      「周りがみんな受けているから・・・」 という理由で、自分も受けたい (または子どもに受けさせたい) と思うケースは多いみたいですね。その気持ちもよくわかります。そう思わせる状況を作り出してしまっていることも、グレード・システムの良くない面ですよね。

      娘さんには、「グレードなんて、音楽を学ぶ上で絶対に必要なことではないし、それほど重要なことではないんだよ」 ということを話して、自信をなくさないようにしてあげてくださいね。

      もう少し大きくなられて、どうしても挑戦してみたいと言った時は、「グレードはゴールではなくて、ひとつの通過点でしかない」 ということを理解させた上で、受けさせてあげてもよいのでは、という気もします。あまり反対してもかわいそうですしね・・・。

      娘さんが楽しくバイオリンを続けて行けることを願っています。

  6. たぬき より:

    管理人さまはじめまして。
    アイルランドにに住んでます。
    最近アイルランド人の知り合いが「ピアノでグレード8とったし、もうピアノは十分いいわー」といって違う楽器を演奏し始めたので、そのイギリスのピアノ検定が気になっていました。グレード8だと皆に「え、すごーい!プロになれるよ!」と大騒ぎするレベルらしいので、どんなにすごいんだろー、特にアイルランドでピアノを達者に弾ける人ってほとんどいないので、気になっていましたらどうもいまいちで。
    一本調子で全然歌わせていないし、指はまわってないし聞いていてはらはらしそうな演奏だったんです。
    で、管理人さまのブログを拝見して目からうろこでした。やっぱりそうなんですね。何のための試験なのでしょう。それで箔がついている(ピアノ講師の経歴として)というのも恐ろしい話・・・。
    将来こどもにピアノを習わせたいと思ってますが、アイリッシュ(とイギリス人?)からは教わりたくないなーとちょっとおもってしまいました。

  7. Yuki より:

    >たぬきさん

    はじめまして。コメントありがとうございます。

    私はアイルランドの事情は全くわからないのですが、イングランドでの状況を見る限り、試験のシステムも、それを受けさせる教師も、「やっつけ仕事」 的な部分が目に付いて、腹立たしく思います。「グレードさえ受けさせてパスさせればいいや」 というような適当な教え方の教師は多いですし、そういう教え方でも試験に通ってしまうシステムには非常に疑問を感じます。

    試験はひとつの目標にはなるので、家できちんと練習できる生徒で、先生が細かく指導をしてくれて、レッスンに時間的余裕があってグレードの課題以外のことも学べるという場合であれば、生徒の成長の手助けになると思います。でも実際は、家でほとんど練習しない生徒が、きちんと教えられない先生について、30分の短いレッスンでグレードの課題だけを適当に仕上げているという場合が非常に多いです。

    大げさなようですが、どういう先生につくかは、お子さんの一生を左右することだと思います。イギリスやアイルランドに限らず、良い先生を探すのはけっこう大変です。良い方が見つかるといいですね。

  8. まる より:

    Yukiさん、こんにちは。
    ノーフォーク在住です。
    ABRSMで検索していたら、日本語のサイトが!!(嬉)
    というわけで、お邪魔しております。
    イギリスの音楽事情を、日本語でお話できるのはとても
    嬉しかったりして。

    ピアノは17歳まで弾いていましたが(その後は20年以上触る
    機会がなかったのです)、ここ2年で少しずつ弾き始めました。
    まだまだ指が定まらずに音をはずすことが多いのですが、
    周囲の同年代の友人や子供たちが当たり前のように、そして
    楽しそうにグレード試験に挑むのを見て、とりあえずグレード7を
    受けてみることにしました。

    2年ごとに変わる課題曲、高額な試験料のわりに弾きにくいと
    評判の当地試験会場のピアノ、そんなことを考えていると、
    自分の払う高い試験料は一体誰の懐へ?なんて思って
    しまいます。が、その反面、作曲家オンチの私には、
    グレード毎になっていればこそ、自分にあった難易度の
    曲に手軽に出会えるというプラス面も大きいです。

    今はピアノの先生に見てもらっていますが、グレードを意識する
    ことで、音楽理論なども教えてもらえてなかなか楽しいです。
    良い先生ですよ。(しかも他のどの先生より安い!)

    来月試験を受けますが、今まであまり意識したことがなかった
    sight readingがやはり怖いです….
    また遊びにきまーす。

    • Yuki より:

      >まるさん

      はじめまして!
      お返事が遅れてすみません。しばらくブログは休みにしておりました。試験、上手く行きましたように!
      確かに、練習のモチベーションが高まるなどグレード・テストには良い面もありますよね。先生次第、取り組み方次第だと思います。

      またぜひ遊びにいらして下さい!

      • まる より:

        こんにちは、返信ありがとうございます。
        無事、合格いたしましたー。
        なんと。もらえました、Distinction。
        課題曲はともかく、スケールやオーラルで結構間違えたので
        嬉しいながらも意外です。外国人だから、どのスケールを
        弾けといわれているかわからなくてマゴマゴしているとでも
        思ってくれたのでしょうか(そんなわけないか)。
        あの出来でこんなに点数をくれていいの?と思うのは、
        やっぱり「アマチュア向け」だからなのかもしれません。

        でも、一念発起でやってみてよかったです(ひとまずホッ)。

        終わったら、なんだか妙に自信がついちゃったりして(笑)。
        それだけでも、十分受けてみた甲斐がありました。
        でも、まだまだグレード8は受けるつもりはないです、はい。

        趣味を超えないピアノですが、やはり音楽は楽しいですー。

      • Yuki より:

        >まるさん

        Distinction取れたのですね。おめでとうございます!

        グレードのシステムは色々と問題があると思うことも多いのですが、練習のモチベーションが上がるというのと、自信がつくというのは、やはり良い面ですね。自分の生徒さんを見ていても感じます。

  9. まる より:

    ありがとうございます!
    やはりピアノは楽しいと最近思い始めたせいか、過去に封印
    されていた忌まわしい記憶(笑)をこのごろ思い出します。
    その話をすることで、少しずつ呪縛からとけている気がするので
    ご迷惑でなかったら聞いてくださーい。

    日本の中学生の時、音楽の時間に「作曲」の宿題が出ました。
    普通の市立中学校ですから、特に音楽に力を入れている
    わけでなし、どうしてそんな課題が出たのかわかりませんが、
    小さい頃から曲らしきものを作って遊ぶのが好きだった私は
    俄然張り切って、一曲作りました。どうしても作曲できないと
    いう友達の分も含めて、連弾曲として。

    友達と練習を重ね、教室でいざ発表後、私と友人に向かって
    先生はなんていったと思います?

    「これ、あなたが作ったんじゃないでしょう?」、と。

    つまり第一声、盗作だろう、って言われたんですね。
    あまりのショックで反論も出来ず、黙ったままの私を見て、
    自分が正しかったと先生は判断したと思います。

    でも、あのときから、私はぱったりと作曲できなくなりました。
    あまりに嫌な思い出だったので、無理やり忘れていたのですが、
    また最近音楽に触れるようになって記憶が戻ってしまいました(笑)。
    百歩譲って、誰かの作った曲に似ていたとしても、いきなり盗作と
    決め付けるなんて、今考えれば言語道断って気がします。
    中学生で「じゃあ誰の曲だというんですか」と先生に口答えする才覚も
    なく、泣き寝入りです。学期末の音楽の成績が「B」だったことで、
    もう駄目押しで音楽の授業に興味を失いました。
    さすがにもう感情的になったりしませんが、今冷静に考えると
    あの先生は先生失格だったな、と思うのです。

    Yukiさん、先生の立場ではこの一件をどう思われますか?

    自分にそういう過去があるので、英国の学校における自分の子供たちの
    音楽教師がどんな人たちか気になるのですが、少なくとも子供の芽を
    摘んでしまうような音楽の先生は今のところいませんし、彼女たちの
    楽器演奏を的確に評価できる先生たちに恵まれているように思います。

    グレード試験も、受けたくなければ受けなくていいのよ、という
    タイプの先生ばかりで、そういうものかと思っていたのですが
    皆さんのお話を聞くとグレードさえ取れれば、みたいな先生も多い
    ようですし、たまたまどういう先生にあたるか、っていうことが問題・・・と
    いうことかもしれませんね。

    • Yuki より:

      >まるさん

      それは辛い経験でしたね。音楽に関してではないのですが、私も中学時代に先生に疑われた嫌な思い出があります。音大時代は、自分の機嫌が悪いからというだけでひどいことを言って生徒を傷つける教授達をたくさん見てきました。その傷は今でもありますが、現在、自分が音楽を楽しむことが、最大の復讐だと思うようにしています (笑)。

      私は教育機関で教えているわけではないので、英国の学校の音楽教師がどんななのかはわかりません。ですが、個人指導しているピアノ教師 (学校に教えに通っている先生も含めて) に限って言うと、けっこう適当にやっている人がたくさんいます。これは日本でも同じです (もちろんきちんと教えていられる方もたくさんいます)。ピアノって鍵盤を押すだけで音が出てしまうので、「いくらでも適当に弾ける」 楽器だと思います。言い換えれば、「いくらでも適当に教えられる」 楽器ということです。でもきちんと学ぶ (教える) には、実はものすごく細かいところに気をつけなければなりません。指の形や使い方はもちろん、上腕の位置、手首の位置、手の甲の角度、手首と肘と腕それぞれの脱力と支えのバランス、姿勢、呼吸の仕方などなど・・・これはほんの一例です。

      グレード・テストではそういうテクニック的な点は細かくチェックされないので、テストに通れば生徒はできた気になってしまうし、先生もきちんと教えられた気になってしまいます。もちろん生徒に自信がつくことは良いことなのですが、私はピアノと身体を一体にして感じられる喜びを知って欲しいしと思います。そしてそのためには、きちんとしたテクニックを学ぶことは不可欠です。グレード7や8を終えたという人が私のところにもたまに来るのですが、テクニックができていないことが多いし、グレードの課題曲以外の曲はほとんど弾いていないということも多いです。バッハのインベンション、モーツァルトのソナタ、ショパンのワルツ、ドビュッシーやバルトークの小品・・・みんな試験に通るのに必死で、こういうすばらしい曲を学ぶ機会がないことは、とても悲しいことだと思います。

      「グレードさえ」 と書いたのは、試験を受けることを生徒に強要するという意味ではなくて、試験に通るのに必要なこと以外は教えない先生が多いという意味です。でも私は、音楽を一生楽しんでいくためには、その 「必要なこと以外」 のことの方が実は大切だと思うんですよね。きちんとしたテクニックを教えないこと、音楽を学ぶことの本当の楽しさや目的を教えないということも、「芽を摘んでしまう」 ということに繋がると、私は思います。それに、グレードを受けていない子供が、「友達はみんな受けているのに・・・」 と引け目を感じてしまう世の中のあり様も、やはりおかしいと思います。子供たちの自信を不必要に奪って、芽を摘んでしまう可能性がありますよね。

      長くなりましたが、まるさんがまたピアノを楽しめるようになったのはすばらしいことですし、先生との相性も良いみたいなので、これからも楽しんでいかれるといいな、と心から思います。

  10. まる より:

    そうですね、またピアノが楽しいと思えるようになっただけでも、すでに毎日うきうきしていますから、昔のことを思い出して噛みしめる余裕が出てきたんじゃないかとも思います。

    うーん、Yukiさんに直接お会いして音楽談義を聞かせていただきたくなりましたよー(笑)

    結構ね、周りに音楽にはまっている友達が多いんですよ。皆30過ぎとか50や60ではじめたバイオリンとか、下手の横好きが昂じて上手になっちゃった!みたいな人もいて、そんな人たちに影響されて私もついピアノを買ってしまった、というところです。で、彼女たちの伴奏に早速借り出される始末です。

    テクニックについては、あくまで私は学習中の生徒ですから、自分がどこまで出来ているのかよくわからないので、やはりYukiさんの仰る「グレードは持っていても・・・」という範疇の一人じゃないかと思います。ただ、昔々、弾いてもぜんぜん楽しくない曲ばかりを弾かされていた頃と違って、今は弾きたい曲を選んで練習するせいか、曲の言わんとするところがなんとなくわかるようになってきた気がします。歳を重ねたってことも大いにあるでしょうが(笑)。ショパンやドビュッシーは昔から大好きでしたが、弾かせてもらえなかったんですよ、たぶんテクニックがないから。そういうものを今練習して、うまく弾けてないにしてもすごく楽しい。まあそれだけで充分かな、とも思います。

    それから、子供たちの学校にはそれぞれ音楽の先生がたくさんいるんですが、どの先生もいまひとつ、という感じがします。時間通りに来なかったり、ちょっと上達が遅すぎない?という子の話もよく聞くし、音に馴染む程度のことしか教えてない気がします。以前私が言っていたのはプライベートの先生のことなんですが、学校で教えている先生とはかなり質に差があるように思われます。学校で教えると、いい先生でもおざなりになったりするんでしょうか。そこがちょっと不思議です。

  11. わんこ より:

    始めまして。スコットランド在住です。

    もうすぐグレード8の試験を受けます。日本で習っていた頃は、ピアノの先生になんか絶対なれないと、諦めていたんですが、こちらの一般の音楽教育のレベルは日本より低いようなので、グレード8を取っただけでも、十分先生として引っ張りだこが現状のようです。ピアノ初心者の友人はグレード5の先生に習っています。趣味程度に習いたい人には良いかもしれませんが、本気で音楽大学でピアノを専攻したいとか、プロを目指したい人には、厳しそうですね。レッスン料も日本より高いです。私は音楽理論と合わせて1時間£28払っています。

    友人がピアノの先生で、物凄く質の高いレッスンをしてくれます。日本では英語リトミックの講師をしていたのですが、こちらに来たら仕事を見つけるのに、あまり
    役に立たず、しょんぼりしていました。でも、友人が試験を受ける事を薦めてくれて
    なんだか少し、希望が持てるようになり、日々ピアノに向かっている毎日です。

    • Yuki より:

      >わんこさん

      はじめまして。コメントありがとうございます。お返事が遅れてすみません!

      「趣味程度」の方を教えるのって、実は案外難しいんですよね。私のところにも趣味程度でピアノをやっている方がたくさんいますが、例えば、テクニック的なことをどこまで掘り下げて教えたら良いのか、などということにすごく悩みます。あまり細かくテクニックを正して行くのは気の毒な気がしますし(テクニックの改善にはものすごい時間と労力が必要となるので。)、かと言って、テクニックにこだわらないと、どこかで必ず行き詰まってしまうからです。

      試験、上手く行くといいですね。怪我の元となるのでくれぐれも無理はせずに、がんばってください!

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